西日本新聞 スフィンクス薪能報道

旅わくわく=エジプト スフィンクス背に「薪能」

壮大な歴史と自然に溶け込んだ幽玄の美

2001.08.15 夕刊

 ピラミッドにスフィンクス、砂漠にラクダ、そしてナイル川...世界最大級の観光名所、エジプトはその期待を裏切らない歴史と自然の宝庫だ。とりわけカイロ郊外のギザにあるスフィンクスやピラミッド群は、何度訪れても「これが人間が造ったものか」と、その壮大さに感動する。このスフィンクスとピラミッドをバックにコンサート-といった国際的イベントが増えている。日本の伝統文化を代表する薪能の公演がこのほど実現、エジプトでも高い関心を集めた。 (池田泰博)

 

 ●千二百人が見入る

 ポン、ポポン-。鼓の音が、乾いた砂漠の夜空に響く。

三本の薪に火が付けられた午後八時過ぎ、ライトアップされたスフィンクスと三大ピラミッドが舞台背後の暗やみに浮かび上がり、能「翁」の上演が始まった。

木造の特設舞台で、宝生宗家十九代家元の宝生英照氏が、天下泰平や五穀豊饒(ほうじょう)を祈りながら、ゆっくりと舞う。訪れたエジプト人や日本人観光客は約千二百人。能の細やかな動きと秘められた力強さに息を潜めて見入った。

 「スフィンクス薪能」と題されたイベントは六月一日(現地時間)に実現。能「翁」とともに狂言「棒縛」、それに能「石橋」が演じられた。

 

●神秘的な雰囲気

 「石橋」では紅白のボタンを仕立てた舞台で、白獅子と赤獅子が躍動的な舞いを繰り広げる。頭を振り、毛をなびかせ目まぐるしく動くが、緊張感のある端正な姿勢は崩れることがない。

 その動きをピラミッドの守り神として建造された巨大石像、スフィンクスが見守る。エジプトと日本の獅子の“共演”は砂漠の暗やみと相まって、幽玄で神秘的な雰囲気を醸し出した。

 主催は、国内外で文化交流事業に取り組んでいるNPO法人「世界芸術文化振興協会」(東京、深見東州会 長)。これまでニューヨークや北京でも能や狂言の公演を行っている。

 

 深見会長は「スフィンクス薪能は長年の夢だった。言葉は分からなくても能の本質はエジプト人にも伝わり、交流ができたと思う」と語った。

 

●音と光のショー

 薪能は特別公演だったが、毎晩二-三回、ピラミッドやスフィンクスを照らし出す中、古代エジプトの歴史を語る「音と光のショー」が催されている。英語やフランス語、スペイン語などに加えて週一回、日本語による公演もある。所要時間は約一時間だ。

 ピラミッドは小高い丘にあり、夜になるとその周囲は真っ暗やみ。ピラミッドやスフィンクスがライトアップされると、その巨大さに圧倒される。重低音の効果音がその迫力を倍加させる。エジプト人は陽気でエネルギッシュだ。その国民性を反映するような「光と音のショー」。

 ただし、しゃく熱のイメージが強い砂漠も、夜は熱を放射してしまうため想像以上に冷える。夏でも上着は必需品。この落差もまた、エジプトの魅力と感じた。

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 ◇交通&アクセス◇

 

 エジプト・カイロへはエジプト航空が成田、関西からそれぞれ週二便運航している。飛行時間は十三-二十時間。エジプト国内の主な観光地、都市にはカイロから空路や鉄道、高速バスとも充実している。ビザが必要だが、観光の場合はカイロ空港で取得可能。問い合わせはエジプト観光局=03(3589)0653。