半田晴久 産経新聞連載 第54回「基礎が大切」
英語は文法教育にも力注ぐべき
公立中学生の保護者は存じていると思いますが、「ゆとり教育」の下では、公立中学の英語は週三時間の授業しかありません。それも英会話中心で、高校受験や大学受験に不可欠な英文法はあまり教えなくなっています。一方、私立の中学は英語が週五-六時間あり、大切な英文法をみっちり教え込んでいます。
この違いを知れば、親の誰もが子供を私立中学に通わせたい心境にあるのでは…。私立入学は別にしても、公立の中学生ならば、塾で英文法を学ばせるなど、私立中学との教育格差を埋める必要があります。放置しておくと進学に際し、不利な結果を招くことは、否定できません。
英文法が重要なのは、受験対策だけではありません。仕事の関係で米国や英国、オーストラリアなどを飛び回っていますが、欧米人を相手に専門的な会話ができ、何とか難解な英語の書類を読みこなせるのも、中学、高校を通じて私が英文法を身に付けることができたからだと思っています。
現在の中学英語は文部科学省の「英文法より英会話だ」という方針の下で、英会話中心の授業を進めています。しかし、文法を知らずに、また、文章の構成、動詞や助動詞の変化を知らずに、その国の言葉を正しく読み、書き、話し、そして理解することができるのでしょうか。
確かに、英会話教育が極端に不足していたのは事実です。私が指摘したいのは、不足分を補う英語の授業数を増やさずに、授業数を減らしたうえに文法より英会話を重視するのでは将来、高いレベルの語学習得は不可能という点です。
早稲田大学の例ですが、英会話に不自由しない何人もの帰国子女が英語の外書講読で単位が取れずみ、中退していく学生がいる事実もあります。その原因は、共通して高いレベルの読解や英文法ができないためだそうです。現に、英文法をしらない大学受験生が多数います。私の予備校では、そういう受験生を対象に、中学英語の基礎を徹底的に復習することから始めています。
現状を直視すれば、公立中学の英語を最低でも以前の授業時間数に戻し、文法教育にも力を注ぐ必要があります。教育に携わる一人として、基礎をおろそかにする公教育の現状には、大きな将来への危機を感じざるを得ません。
みすず学苑 半田晴久
2004年3月11日 産経新聞