半田晴久/深見東州 産経連載第37回「英国の公教育」
荒れすさむ現実 立て直しが焦眉の急
仕事でよくイギリスに行く関係で、英国にも多く友人がいます。彼らの話によると、英国の公立学校も日本に劣らずすさんでいるようです。
彼らと公立学校の議論になると、「公立学校の先生のやっていることはレッド・テープ・ジョブの見本のようなものだ」という言葉が、決まり文句のように飛び出してきます。「レッド・テープ・ジョブ」は、英国で公文書を縛るのに用いた赤いテープから転じた言葉で、英国人は「効率の悪いお役所仕事、あるいは官僚的仕事」といった意味合いで使います。その典型的な見本が公立学校の先生であるというのですから、公教育もお役所仕事の弊害に陥っているのです。
「先生が一カ月間も休暇を取って旅行に出かけたり、ストライキと称して授業をボイコットしたり、引き継ぎが悪くて一日中授業がなかったりするのは日常茶飯事。もはや公立学校には何も期待できない」と、公立学校を蔑む友人らの気持ちも理解できる気がします。
一方、私立学校は、さすがに長い伝統を誇るだけに発展の一途をたどっているということです。たとえば、OBたちが競うように資金を出し合って、財政的援助を行っているのも英国の私立学校の特色で、「いい教育は私立でしかできない」との考えが社会的に定着しています。ですから、良家の子女はもちろんのこと、多くが公立学校に見向きもせず、私立学校に殺到するのも、当然といえば当然です。
しかしその一方で、資金的に余裕のない家庭の子供たちは、公立学校に通わざるを得ず、結果的に英国の社会的階級制度は緩和の方向どころか、ますます先鋭化するばかりだといった言説を、英国を訪れるたびに聞かされてきました。
社会の階級的二分化は英国の国力を削ぐ一番の原因であり、その解消は焦眉の急といわれて久しいと聞きましたが、一向に解消の兆しが見えてこない理由もその辺にあるのか、と推察しています。
この事象は、日本にとってもはや対岸の火事ではないはず。荒れすさんだ公立校を嫌い、私学に通わせる傾向が強まっている現実が、何よりの表れではないでしょうか。公教育の立て直しは日本にとっても、焦眉の急であると言い続けているのですが…。
みすず学苑 半田晴久
2003年11月6日 産経新聞