半田晴久 産経新聞連載 第30回「志望校選択7」
大学で会得する論述能力の重要性
「実力主義」「能力型社会」の言葉が好まれている社会風潮に反して、大学進学を勧めるのは時代に逆行するだろうか。「予備校経営者だから、そう言うのだろう」。そんな雑音も聞こえてきそうです。
私は、そんな狭い了見で大学進学を勧めているのではありません。子供たちの十年後、二十年後を考えたとき、大学に行っておれば・・・の後悔をさせたくないのです。
進学推奨の理由は、大学で会得する論述能力の重要性です。周囲を見渡すと、社会人にとって最も重要な論述能力が劣ることで、苦労している人がたくさんいます。
私の知りうる限り、試験に○×式や択一式の出題をする大学は存在しません。大学の試験は論述が基本です。「○○について述べよ」のテーマに対して起承転結、あるいは序論・本論・結論という形式をとりながら、自分の意見を論述していくのが一般的です。いまだ、マークシート方式や穴埋め方式の試験を取り入れた大学があるという話は、聞いたことがありません。
大学の試験に限らず、司法試験、公認会計士試験や英検1級であっても、論述能力を問う出題が現在は主流で、論述部分に最高の配点を与える傾向は年々強まっており、その出来具合が合否を大きく左右します。
社会人になると、それ以外の場面でも、論述能力が問われるケースは多く、必要性を痛感させられます。IT・パソコン時代となっても、組織はすべて書類を通して動いていくわけで、その書類が中学生や高校生が書いた作文程度であったら、企画書として通用しません。理路整然と表現できないと、営業力に秀でていようが、抜群のアイデアの持ち主であろうが、文章の壁に阻まれ、頭打ちになってしまうのです。
仮に独立し、社長を目指す人でも同じ。銀行に提出する事業計画書一つにしても、文章に説得力がなければ、資金調達もままならないのが現実です。論述能力を養い、鍛えていくのに最適なのが、大学における定期試験というわけです。
この時期、周囲の雑音に惑わされて、目標を変更するのは、苦労を将来に先送りすることに外なりません。胸突き八丁のときほど、目標を見据えた行動をとるのが、賢明の選択であることを、もう一度、アドバイスします。
みすず学苑 半田晴久
2003年9月18日 産経新聞