半田晴久/深見東州 産経連載第27回「志望校選択4」
受験勉強は自己形成の基盤づくり
蛍雪灯火。時代にかかわらず、受験生が深夜まで入試勉強に励む姿は変わりません。識者や評論家の中には、受験競争に批判の目を向ける人もいます。訳知りに「受験競争が受験生から人間らしさを奪い、将来にも悪影響を及ぼしている」といいますが、本当にそうなのだろうか。
三十年近く進学予備校を運営してきた私からみると、逆に受験は、子供は無論のこと家族にとっても大きなプラス要因として作用しているのが実態だといえます。
受験競争が激烈であるのは事実ですが、それは有名校や、優れた伝統、教育や施設が整っている難関校での話です。中堅校や短大の中には、少子化で定員割れの学校もあり、数年後は、全員合格の時代になるという話があるぐらいなのです。
最近では、激烈な受験競争は、ひとにぎりに過ぎず、志望校のランクを下げさえすれば、競争は他人事にすぎない、といっても間違いではありません。
自由社会では、優れた質を求めれば、激しい競争が演じられるのが実態です。努力と研究によって獲得してこそ、獲得する価値があるのです。
受験もその例外ではあり得ません。
私は学生のころから能を勉強しています。今までに能のシテを三十番以上も演じているので、よくわかるのですが、この世界では、三歳ぐらいから徹底的なスパルタ教育が行われます。歌舞伎や日舞や笙、三味線、囃子方なども同じで、その厳しさたるや受験勉強の比ではありません。
優れた芸を身につけさせなければ、将来プロになったとき、その子が恥をかき、芸人として劣等感を抱き、苦しむことが目に見えているからです。
同じことは受験勉強にも当てはまります。受験生にすれば、勉強に明け暮れる日々は楽なものではありません。だが、この時期に頑張れば頑張るだけ、知能は発達し、大きな実りになるものです。
それは単に志望校への合格を意味しているのではありません。そのプロセスが大切なのです。ちょっと抽象的かもしれませんが、人間の一生は勉強の連続です。受験勉強は、そうした将来の自己形成の基盤づくりです。自らに課したノルマを達成し志望校への合格を果たすことで、何物にも代えがたい達成感が得られます。
みすず学苑 半田晴久
2003年8月28日 産経新聞