半田晴久(深見東州)日本国際フォーラム第33政策提言
外国人受入れの展望と課題 2010年11月24日発表
2010年11月25日 全国紙3紙掲載
2008年秋の世界経済危機で深く傷ついた欧米経済とは対照的に、東アジア経済は、新興国・地域が中心になって域内のネットワークをダイナミックに再編しながら、各国・各地域経済が急速に成長率を回復し、自立的発展の実現を目指す新たな段階を迎えつつあります。注目されるのは、世界経済危機の影響、域内に残る冷戦時代の不安定な構造、国際的なテロの懸念にもかかわらず、域内の人の移動はいっそう高まっていることです。特に、ビジネスや観光を目的とする短期的移動は急速に回復しています。
また、短期滞在外国人だけでなく、日本に長期間滞在する外国人も、アジア出身者を中心に、2009年末現在で、その十年前の約1.4倍にあたる218万人に増加しました。外国人の定住化が進展し、永住権を有する者は、既に94万人を超えています。仮にわが国の外国人受入れ条件が現状のまま推移したとしても、東アジア経済の統合が進むのと並行して、国内の定住外国人は増加基調を強めるものと予想されます。
このような定住化の段階は、1980年代半ばの欧州諸国の状況を想起させます。当時の欧州諸国「他文化主義」への楽観論が支配的であり、移民受入れには寛容でした。しかし、1990年代になると、地域社会のなかに相互にコミュニケーションが成立しない異文化集団やゲットーが現れ、不法移民も増大しました。フランスでは、公共教育の場で禁止されているブルカを着用する一部イスラム教徒によって、国是である政教分離原則が脅かされ、それに対して右翼政党が反発するなどの状況も生まれています。
わが国は、このような欧州の経験から学び、安易な外国人の受入れが、受入れ国の社会・文化の一体性を損なうだけでなく、政治・安全保障にさえも緊張をもたらしかねないものであることを理解し、必要な対策を講じなければなりません。因みに、欧州への移民は主としてイスラム圏からの移民であり、欧州のキリスト教文明と摩擦を生じていますが、予想される日本への移民の大きな部分は、古い歴史的経緯をもつ朝鮮半島出身者に加え、巨大な人口圧力を抱えながら大国として台頭しつつある中国からの移民です。永住外国人への地方参政権付与が問題となっていますが、憲法違反の可能性の高い提案であるだけでなく、政治的な結末に懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要と考えます。
「外国人受入れ」に関するこのような欧州の経験から学びつつも、しかしながら、われわれがそこから出発せざるを得ない今日の日本の現実は、日本がグローバル化する世界経済のなかで生き残り、成長する東アジア経済との一体性や相乗効果を確保するためには、国内の人材を最大限に活用しつつも、基本的に外国人を受け入れなければならない、という現実です。問われるべきなのは、受入れの可否ではなく、受入れの条件です。どのような制度を設計し、どのような体制を整備して、外交人を受け入れるか、が問われているのです。
では、その条件とは、どのような条件であるべきなのでしょうか。1990年代後半以降、欧州諸国は、外国人の受入れは、移民送り出し国や移民自身の希望によってではなく、受入れ国が条件を設定し、その条件によって選択すべきものだとして、「選択的移民政策」を打ち出しています。移民は、受け入れ国社会への統合が可能であり、さらには受入れ国への貢献が期待できる者に限るとの原則であり、その観点から受入れ国の言語を話せることなどの条件が導入されています。われわれは、わが国も、この原則を採用すべきだと考えます。
受入れ国言語の習得については、欧州諸国は、1980年代の楽観的な「他文化主義」の失敗から学び、アメリカやカナダなどの定住移民受入れ国の経験も踏まえて、外国人のための受入れ国言語習得の機会を積極的に整備しています。外国人による受入れ国言語の習得は、受入国社会の一体性を維持し、外国人住民の縁辺化を防ぎ、貧困の堆積や治安の悪化などの社会的費用の発生を抑制する投資として認識されているからです。
わが国は、人口減少時代に突入し、国内市場の力強い成長が見込めないだけに、東アジア地域統合の進展に伴う域内人材の開発や域内人材の秩序ある移動に期待するところが大であります。アジアと日本をつなぐ人材を確保するため、優秀な外国人留学生の受入れ拡大とそのキャリア形成の支援が必要です。地域活性化を目指す自治体では、日系人や技能実習生に限らず、地域の持続的発展を支える外国人労働者と家族の受入れが不可欠です。なぜなら、18歳人口が2017年以降、現在の130万人から110万人台以下へと急減するうえ、大都市への若年人口流出と大学進学率の上昇が続く結果、地方都市においては、若年層を中心に人口減少が加速するとみられるからです。
国内で就労する外国人が配偶者や家族を呼び寄せるなどの家族移民の受入れの保障も重要です。現状では、わが国の定住的なヶ一区人に占める就労目的外国人の比率は3割強で、家族移民は1割程度に過ぎません。しかし、欧米諸国では、家族移民が外国人受入れの過半を占めています。定住外国人が増えるにつれ、日本でも家族移民の比重は上昇してくるでしょう。そのことを予想し、家族移民受入れの環境整備を進める必要があります。また、難民支援については、本年9月に第三定住難民の受入れを開始したことを契機に、今後とも着実にその体制を強化すべきです。
政策提言
提言1 観光やビジネスを目的とする外国人は極力受入れを拡大するとともに、
定住目的の外国人については、日本の国益の観点から選択的に受け入れる
べきである。
提言2 外国人高度人材を優先的に受け入れ、わが国に滞在し、国内外を移動しな
がら自由に活動できる諸条件を整備せよ。
提言3 狭義の不熟練労働者の受入れは今後とも慎重に対応する一方、日本人だけ
では供給困難な職種を特定して、その人材開発と資格取得を支援せよ。
提言4 「経済連携協定」における外国人受入条項の条件の柔軟化を図るととも
に、就労を認める分野を順次拡大せよ。
提言5 社会統合政策を外国人政策の第二の柱とし、国と自治体が連携する効果的
な実施体制を確立せよ。
提言6 日本語能力を持たない外国人に対し、地域における日本語学習の機会を
保障する体制を整備せよ。
提言7 秩序ある労働者受入れと労働者保護のために、「外国人雇用法」を制定
するとともに、二国間「労働協定」を締結せよ。
提言8 「社会保障協定」の締結を促進し、国内外を移動する日本人及び外国人に
配慮した社会保障制度とせよ。
提言9 永住外国人への地方参政権の付与は、憲法違反の可能性が高く、政治的に
も懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要と考える。
2010年11月25日
●政策委員長
伊藤 憲一 日本国際フォーラム理事長
●副政策委員長
吉田 春樹 吉田経済産業ラボ代表
●提言起草委員
平林 博 日本国際フォーラム副理事長
井口 泰 関西学院大学教授
●政策委員
愛知 和夫 日本戦略研究フォーラム理事長
浅尾慶一郎 衆議院議員(みんなの党)
阿曽村邦昭 比較文化研究センター会長
荒井 好民 ノースアジア大学教授
池田 十吾 国士舘大学教授
石垣 泰司 元駐フィンランド大使
市川伊三夫 日本国際フォーラム理事
伊藤 英成 元衆議院議員
伊藤 剛 明治大学教授
井上 明義 三友システムアブレイザル取締役相談役
今井 敬 日本国際フォーラム会長
内田 忠男 国際ジャーナリスト
鵜野 公郎 慶應義塾大学名誉教授
浦野 起央 日本大学名誉教授
大蔵雄之助 異文化研究所代表
太田 正利 元駐南アフリカ大使
大宅 映子 評論家
岡 照 前大垣女子短期大学教授
小笠原敏晶 ジャパンタイムズ・ニフコグループ会長
小川 元 文化学園大学客員教授
折田 正樹 中央大学教授
河合 正弘 アジア開発銀行研究所所長
河東 哲夫 ジャパン・ワールド・トレンズ代表
木下 博生 元中小企業総合事業団理事長
木村 崇之 元欧州連合代表部大師
黒田 眞 安全保障貿易情報センター理事長
斉藤 昌二 元三菱化学顧問
斉藤 直樹 山梨県立大学教授
坂本 正弘 日本国際フォーラム上席研究員
佐久田昌昭 日本大学名誉教授
櫻田 淳 東洋学園大学教授
右近充尚敏 平和・安全保障研究所評議員
佐藤 直子 専修大学教授
澤 英武 評論家
澤井 昭之 元駐ノルウェー大使
志鳥 學修 航空評論家
島田 晴雄 千葉商科大学学長
清水 義和 前日本国連教会理事
鈴木 馨祐 前衆議院議員
紿田 英哉 国際教養大学教授
高橋 肇久 前学習院大学特別客員教授
高橋 一生 元国際基督教大学教授
高橋 明生 東京大学教授
田久保忠衛 青森大学名誉教授
田島 高志 元駐カナダ大使
塚崎 公義 久留米大学教授
東郷 和彦 京都産業大学世界問題研究所長
堂之脇光朗 日本紛争予防センター理事長
トラン・ヴァン・トゥ 早稲田大学教授
内藤 正久 日本エネルギー経済研究所顧問
中西 實 京都大学教授
奈須田 敬 並木書房会長
鍋島 敬三 評論家
袴田 茂樹 新潟県立大学教授
橋本 宏 元駐シンガポール大使
長谷川和年 日韓協力委員会副理事長
畠山 襄 国際経済交流財団理事長
半田 晴久 世界開発協力機構総裁
平沼 赳夫 衆議院議員(たちあがれ日本)
広中和歌子 前衆議院議員
廣野 良吉 成蹊大学名誉教授
吹浦 忠正 ユーラシア21研究所理事長
船田 元 前衆議院議員
古澤 忠彦 ユーラシア21研究所研究員
本間 正義 東京大学教授
正木 寿根 国際ジャーナリスト
松井 啓 元駐カザフスタン大使
眞野 輝彦 国際金融評論家
宮本 信夫 外交評論家
宮脇 磊介 初代内閣広報官
森 敏光 元駐カザフスタン大使
森井 敏晴 前天理教名古屋大協会会長
森本 敏 拓殖大学海外事情研究所長
安江 則子 立命館大学教授
矢野 卓也 日本国際フォーラム主任研究員
山澤 逸平 一橋大学名誉教授
屋山 太郎 政治評論家
湯下 博之 元駐フィリピン大使
吉田 康彦 大阪経済法科大学客員教授
若林 秀樹 元参議院議員
渡辺 利夫 拓殖大学総長・学長
渡辺 繭 日本国際フォーラム常任理事
以上署名者87名(五十音順)