半田晴久/深見東州 産経新聞連載第17回「教育の実像5」
欧米との卒業資格の差 背景に企業文化
日本の大学も「欧米に見習って卒業条件を厳しくすべきだ」との話をよく耳にします。それはそれで結構なことだと思うが、なにもかもを欧米に見習えばよい、というものでもありません。
前提として、日本の大学制度は悪いのか、ということ。私は、外国の知人・友人が多くいますが、日本の大学制度への批判を聞いたことは一度もありません。むしろ日本人が「九九」を使って、ミスのない暗算や割り算が一瞬にできることに驚嘆する人がほとんどです。
私は「日本は十七世紀初頭に、世界に先駆けて関親子が関和算をはじめ、行列式などを開発した創造性豊かな国ですよ。そして、江戸時代から識字率が世界一高い国ですから・・・」と自慢し、それを聞いた欧米人は、そんな日本を尊敬しています。
本題の卒業条件ですが、もし全大学が欧米並みに厳しくしたら、就職事情や日本の経済はどうなるのでしょうか。
成績優秀で一流大学を卒業した人は例外として、卒業できなかった人が増えれば、大卒者の就労人口動態などが変わり、社会に及ぼす影響は避けられません。
地場中堅企業から、世界的企業へ大成長を遂げたオムロンや日東電工、村田製作所などを例にしても、学業優秀者だけが企業を支え、発展させてきたのではないのです。また、在学中はそれほど勉学に熱心な学生でなくても、社会人になってから猛然と勉強し、企業の発展に寄与するケースはたくさんあります。
日本と欧米の卒業資格に対する評価の相違には、背景に企業文化の違いがあると思います。
欧米では、いろいろなキャリアや能力を持った人間が、契約で就職し、契約に基づいて、会社を運営するのが基本です。だから、大卒や大学院修了の肩書きが、高いレベルのエキスパートであることの証明です。それに対し日本の大卒や大学院修了は、あくまで基礎学力を測る目安。「エキスパートは就職してから育てる」という日本社会とは、根本的な面で違うのです。
大学院修了でない田中耕一氏が、島津製作所に入社後の研究業績でノーベル賞を受賞したのも、そういう企業文化の背景があるのです。
ですから、この議論には、日本の高い大学進学率や社会的事情をよく勘案すべきだと思います。
みすず学苑 半田晴久
2003年6月19日 産経新聞